卒業生からのメッセージ

人の生活を安全で豊かなものにし広く社会に貢献できることが土木工学の魅力です

中井 健太郎(なかい けんたろう)さん名古屋大学
工学研究科 社会基盤工学専攻 准教授
(2000年卒業,2015年執筆)

中井 健太郎(なかい けんたろう)さん 名古屋大学 工学研究科 社会基盤工学専攻 准教授

人々の様々な生活基盤を支える「地盤」について研究しています

私は現在,大学院で土質力学・地盤工学を専門に研究しています.

「土や地盤が研究対象になる」と聞くと,びっくりするかもしれませんが,私たちがふだん足をついて暮らしている「地面」は,固くて丈夫なものばかりではありません.ニュースなどでも報道されるように,大雨で斜面がくずれたり,地震で水が噴き出し,どろどろになったりするような弱い地面も,私たちの周りには多く存在しているのです.

また,「土」と一口に言っても,さらさらした砂からどろどろした粘土まで,様々な特徴があります.小さいころ,「砂場」でお城を作って遊んだ経験がある人は多いでしょう.けれども,「粘土場」でお城を作ったことはないと思います.反対に,土遊びをして「泥団子」は作れても,「砂団子」は作れなかったはずです.

実はこれは,「砂の地盤は液状化するが,粘土の地盤は液状化しない」といった実際の現象と密接に関連しています.現在,東海地方は南海トラフ巨大地震の危険にさらされています.実験や解析を通してこのような土の性質を精緻に把握することで,災害時の被害を少しでも軽くできるような研究に取り組んでいます.

大学に入ってみて始めてわかることがたくさんありました

土木分野への関心が生まれたのは,小学校のころ.父のアドバイスで,1989年に起こったサンフランシスコ大地震を題材に自由研究をしたときです.簡単な液状化の実験に挑戦したのですが,実際に現象を自分の目で見たことが印象に残り,以来,何となく土木への興味や関心を持ち続けていました.このときの実験は,今でも小学生の体験授業などに使っています.

入学するまでは,土木イコール,橋や道路,空港や鉄道といったインフラ施設を設計したり建築したりするのだろうと想像していました.したがって,「材料を触ったり,模型などで実験をするのかな」と予想していました.

しかし実際は,各分野で精緻な数値解析が行われていました.地盤の状態がどのように変化するかの予測や,橋脚が地震にどれくらい耐えられるかの評価が,計算機の中でできることは驚きでした.また,都市計画や環境も土木分野に含まれることや,構造系・水工系・地盤系・環境系・計画系といった土木の各分野が互いに密接に関係していることも知りました.いずれも,高校生のときには想像もしていなかったことでした.

研究を通して議論を交わしたことで自分の見識が深まりました

大学では,高校と違い,自分が能動的に勉強できることが最大の特徴.また,既にわかっていることではなく,まだわかっていないことや知らないこと,誰にも調べられていないことを研究できるのも大学ならではの特徴だと思います.

加えて,自分の出した答えや考え,成果に対して,他の人から意見をもらったり討論をしたりすることも貴重な経験です.自分が考えてもいなかったような意見をもらい,それによって見識が深まる体験をしたことは,研究生活の中で最もためになりました.

卒業研究で,夜遅くまで同級生と一緒に苦労しながらひとつの研究課題に取り組んだことも,大学生活の中でもよい思い出です.議論を交わした友人とは,今も,密なつきあいを続けています.

幅広い分野との関わりの中で自分を磨いていく道を探そう

土木分野の良さは,社会や人間の役に立つことに直結していることだと思います.たとえば防災やインフラ整備,都市計画,環境問題など,どれも人の生活を安全に,豊かにするものです.また,土木分野に限らず,幅広い分野に関わることが多いのも特徴のひとつだと思います.

高校生の皆さんには,大学に入ることを最終目標にしないで! と伝えたいですね.大学で実際に勉強したり,先生や先輩たちと触れ合ってその分野のことを学んだりしてみると,最初に抱いていた印象や予想とは違うものが見えてくるはずです.

また,社会で今何が起こっているか,様々なメディアを通して情報を持っておくことも勧めたいと思います.たとえば,少し前までは,高速道路は「新しく作る」という考えが主流でした.しかし今では「直しながら維持する」ことがメインとなっています.時代によって必要とされるものがどう変わっているかを意識して見ておくと,後できっと役に立つと思います.

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