卒業生からのメッセージ

開発途上国の貧困削減に不可欠なインフラ整備

西村 政洋(にしむら まさひろ)さんアジア開発銀行 東アジア局 交通専門家
(1990年卒業,2017年執筆)

西村 政洋(にしむら まさひろ)さん アジア開発銀行 東アジア局 交通専門家
中国寧夏回族自治区の地方道路プロジェクトで地域住民らと(中央が筆者)

世のため、人のため、自分のため

というと大げさですが、環境土木や社会資本(インフラ)整備の仕事は、多くの人たちの役に立ちます。道路や交通整備により経済活動が活性化したり、電気や水が各家庭に届けられたり、河川堤防やダムにより地域が災害から守られたり。自分の携わった施設が完成したときや、災害対応の現場で働いたときには、施設を使う人たちの喜ぶ顔を見て幸せな気分になります。時に上司と意見が合わなかったり、仕事が辛いときにも、「自分はこの上司のために働いているんじゃないんだ」と思うと、苦にならないものです。

社会の基礎、多彩な専門分野

個人的な感想ですが、環境土木工学というのは、かなり「つぶしの利く」裾野の広い学問ではないかと思います。対象物やその影響が大きいだけに、経済や環境といった要素を含む計画、力学的要素満載の設計、人やお金のマメジメントも重要な施工管理など、様々な場面に応じた勉強、研究ができます。また、山の上、海や川の中、市街地、極寒や常夏の地など、対象となる様々なフィールドに応じた研究も進んでいます。裏返せば、学生の皆さんにはそれだけ多様な知識、研究ができますし、他の分野へ応用可能な領域も多いと思います。

時代を越えて、国境を越えて

有史以来、いつの時代もインフラは人類の生活や経済活動に欠かせないものです。充実したインフラは国や地域を強くするとして、時の権力者はインフラ整備や管理に大きな労力を割いてきました。それは今でも変わりません。戦後の日本やアジア諸国の発展は、インフラ整備により牽引されたとも言われます。また、アジアでは、今後、年間190兆円のインフラ需要があると予測されています。日本では、造ることに加えて造ったものを守ること(維持管理)の重要性が増していますが、まだまだ基礎的なインフラが無い国や地域も多いのです。

アジアの貧困削減のために

私は、日本の国土政策や道路、河川の整備に携わった後、現在、アジア開発銀行という国際機関で開発途上国の交通施設整備を支援しています。具体的には、アジア各国の道路や都市交通プロジェクトをデザインして、政府がプロジェクトを実施する際の資金を援助します。また、プロジェクト実施中には、対象物がうまく造られているか、環境への悪影響がないかなど現地に確認に行きます。貧しい村や地域に行ってインフラ整備を指導したり、住民のニーズに合っているか聞き取り調査したりもします。遠い国の見知らぬ貧しい人たちから、インフラ整備に対する期待や喜びを伝えられるのは、うれしいことです。

不純な動機

最後に自分の学生時代の経験について一点紹介します。今と違って、当時、土木工学科は男子生徒が大半で(同級生は女性1人だけでした)、文系の学部が華やかに見えたものです。そこで、文学部で英語の授業を受けることにしました。高校時代、嫌いだった英語がだんだん好きになり、アメリカ人やニュージーランド人の友達(残念ながら?男でした)もでき、英語学習にも力が入りました。その後、就職先(現在の国土交通省)で海外留学もさせてもらい(留学先で妻とも出会い)、今では英語が公用語の国際機関で働いています。不純な動機で始めた英語学習が今では大変役だっているのです。皆さんにも、大学生活では、時には予期しない様々な機会が訪れ、やりたいと思うことが出てくるでしょう。名古屋大学には様々なチャンスが広がっています。自分の殻に閉じこもらず様々なことにチャレンジしていってください!

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