専 攻 長 挨 拶

専攻長から皆様へ



土木工学って何?土木技術者の役割は?

土木工学は、「自然災害等の社会課題の解決および環境の創造・維持発展を目的として、社会基盤を整備する工学」と定義することができます。英語では、Civil Engineeringといいます。Civilは、市民や文明という意味がありますので、土木工学は社会基盤(インフラ)を通して現在の文明社会を支える役割を果たしています。社会インフラは、自然の作用を制御し国土の保全や利用を行うダム・河川・海岸保全施設、生活環境の維持を行う上下水道、電力やガス施設、通信施設などのライフライン、経済活動の基盤となる道路、鉄道、港湾空港などの交通運輸施設、と多岐に渡ります。また、土木工学では、都市・地域・国土計画、さらにはエネルギー問題や地球環境問題までも扱っており、文明社会を支える学問と言うことが分かっていただけると思います。

大規模な地震や台風によるインフラ施設の被害、インフラ施設の老朽化による社会不安など、インフラ施設が社会に果たす役割をあらためて考えるような出来事が近年複数起きています。このような出来事を見れば、一度インフラ施設の機能低下や破壊が生じれば、日々の生活や社会活動に及ぼす影響が非常に大きいことが分かると思います。インフラ施設がその機能を果たし快適な社会活動に貢献することは当たり前ですが、当たり前のことは実は強固なシステムでできあがっているのではなく、災害や老朽化などの問題を含みながら不安定な状態で維持されているという事実も理解頂きたいと思います。

一般の方が当たり前と考える生活や安全を守っているのが土木技術者です。当たり前のことを続けることは実は簡単なことではありません。何もしなければ、モノは必ず劣化しますので、当たり前を続けるためには見えない多くの努力が必要です。また、モノだけでなく都市や地域も何もしなければ劣化し活力を失っていきます。都市・地域・国土計画を考え、将来に渡って活力ある社会を作って行くことも大切です。土木技術者は、当たり前と思われている現在の社会を守り、将来はこんな社会にしたいという思いを具現化する役割を担っています。

 

土木って何?と思っている、あるいは土木に少し興味がある学生の皆さんへ

土木技術者の役割を上に書きましたが、その仕事の意味を考えてみましょう。数年前に何人かの留学生に土木工学を選んだ理由を聞きました。インフラの整備を通して生活の改善や国を豊かにしたいという理由が多く、地震の危険度が高い国の学生は安全な国を作りたいとのことでした。私が最も印象に残ったのはアフリカのエチオピアからの留学生の理由で、「医者よりも多くの人の命を救える仕事だから」でした。

20253月に公表された南海トラフ地震の被害想定では、死者は最悪の場合約30万人に達するとされました。死者数を減らす努力をできるのが、土木の力です。現在の社会を守り、将来の社会を作る仕事は、人の命を救うとともに多くの人を幸せにできる仕事と思いませんか?多くの人が笑顔に過ごす、そんな方たちを見続けるための仕事ができる技術者を目指してみませんか。

 

名古屋大学土木教室が果たすこと

名古屋大学土木教室は、教育においては、先に書いたような土木に対する思いで将来を担う土木技術者を育てています。研究においては、最先端の学術的な検討だけでなく現在直面する課題解決に向けた技術開発やその社会実装にも取り組んでいます。社会活動においては、国や自治体あるいは民間企業の進める事業などに専門的な知見を生かして協力しています。またその活動は国内に留まらず世界を見据えて行っています。

世界有数の土木分野の拠点として、教育・研究・社会活動を通してその役割と責任を日本だけでなく世界に対して果たしていきます。



2025年4月吉日
環境土木工学プログラム主任
土木工学専攻長
中村光