卒業生からのメッセージ

国をまたぐ土木工学の仕事で人々の「暮らしや活動」をサポート

中西 雅時(なかにし まさとき)さん株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル
総合開発事業部 港湾部長
(1983年卒業,2018年執筆)

私たちの専門分野と仕事

東日本大震災の日、私は東京の本社事務所のデスクで仕事をしていました。突然の強い揺れで、デスクの書類が落ちないように抑えながら、震源地がどこでどの程度の深さなんだろうなどと考えていました。揺れが止まって、事務所では何人もがスマホや会議室のテレビでそれを確認していました。M-9.0、三陸沖70km、深さ24km。何人もの同僚も、自分も、凍りついていました。その時から約2時間以内にどのようなことが起こるであろうと想像してしまうからです。

土木工学の技術者というのはそうした知識と感覚を身につけた人たちです。私たちの専門分野は、かなり人命に近いところで仕事をしています。医師が患者個人の生命をあずかるのに対して、私たちは都市だとか地域だとかの人たちを、まるごとあずかるということになると思います。津波や地震で都市が破壊されるのを防いだり、洪水で家や人が流されないようにするにはどうしたらよいのか、と考えるのが私たちの仕事と言えます。

また、一方では、国民の生活を豊かにするにはどうするか、ということを考えるのも私たちの仕事のひとつです。例えば、リニア新幹線が建設されて、東京と名古屋が片道40分くらいで行き来できるようになると、早く行けて楽だというような便利さだけではなくて、国民経済に影響する経済的な効果が生じます。仮に時給5,000円で働いているAさんが名古屋から東京に出張する場合、これまで片道1時間半かかっていたのが40分で行けたとすれば、片道50分の節約ができて、4,167円分多く東京で仕事ができることになります。Aさんは新幹線で行くより多くの仕事ができるようになり1日当たりの生産性は上昇、名古屋に帰ってきて報告書を書くまでの時間も短くなり、家族と過ごす時間が増えて生活がより豊かになると考えられます。リニアモーターカー1便1,000席と考えると、1便走らせるだけで417万円の経済効果が期待できる、というわけです。

いかがでしょうか? 多少興味が湧いてきましたか?次は私自身の仕事について少々ご紹介します。

私の仕事と仲間

中西 雅時(なかにし まさとき)さん 株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル 総合開発事業部 港湾部長

私は現在、開発コンサルタントに勤務して、海外の建設事業のコンサルティングをしています。より具体的に言うと、我が国のODA(政府による途上国開発のための資金・技術援助)の仕事が多いのですが、そのための情報収集調査、事業の計画調査、施設の設計、建設契約、施工監理、などです。

こうした専門的な言葉は、高校生の諸君にはまだ馴染みが薄いかもしれませんが、例えば右の写真、ミャンマーのマンダレーという人口100万人クラスの都市の港の様子です。岸壁などの施設はなにも無く、荷物は全て人力で運ばれています。

私たちの調査チームは、統計データが不足している現地に何度も足を運び、年間約100万トンの貨物が扱われていると推定し、

上の写真のような港湾施設を建設し、人力作業を機械化すべきだと提案しました。

施設を建設した場合の経済的効果も推計し、結果をもとに我が国のODA資金協力で実施される予定です。

また、もうひとつ、アフリカのモザンビークにあるナカラと言う町の、港の建設の仕事をしています。こちらの仕事は、既に我が国のODAにより約370億円の融資が決まっていて、私たちのチームは施設の詳細設計を行いました。チームは、日本人をはじめ、ポルトガル人、モザンビーク人の総勢20人ほどの混成チームです。

共通言語は英語ですが、政府機関や仲間がポルトガル語圏の人たちなので、こうした様々な国の人たちと公私にわたり付き合うことができるのも、私たちの仕事の、醍醐味のひとつです。写真は、完成した設計図面集を囲んでマドンナ秘書・ポルトガル人技師とパチリ。

大学で学んだ事

私の大学生活は、体育会の選手をやっていましたので、そちらの方もわりと大変で、授業中に時々居眠りをして先生によく叱られていました。成績も思ったように上昇しなかったと記憶していますが、それでも、チャレンジ精神と意欲を買われたか、教室から推薦をもらい、修士課程はタイの大学へ留学しました。そこでは、様々な国から来ている留学生と共に学び、そうしているうちに自分の我が国技術者としての立ち位置を学んだように思います。

卒業論文研究に取り組んでいた時、先生から、大学では知識を教えると言うより、自分の力で考えて解決策を探す習慣を身に着けさせることが重要だ、と教えられたのを覚えています。困難に直面したとき、今でもそのことを思い出します。自力で考え、同僚の意見に耳を傾け、知識と経験を駆使してアイデアをひねり出し、そして実践する。

人生における取り組み姿勢のさわりを、大学にガイドしてもらったのではないかと思っています。高校生諸君、ここが、高校までの勉強と大学の勉強の違うところです。ぜひ意欲あふれる学生に、私たちの仲間になってほしいと思っています。

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